藤田医科大学 腫瘍医学研究センター

研究

中枢神経リンパ腫と中枢神経系感染症、脱髄性疾患を、脳脊髄液の遺伝子解析(リキッドバイオプシー)で効果的に鑑別

「悪性リンパ腫」は、白血球のなかの「リンパ球」が悪性化(腫瘍化)した疾患です。悪性リンパ腫は脳や脊髄などの中枢神経系で発症する場合もあり、病気が進むにつれ、麻痺などの様々な神経症状を引き起こし、治療を行っても後遺症が残る場合もあります。そのため、なるべく早期に診断し治療を開始することが重要と考えられています。しかし診断のために行う「組織生検」は、手術によって腫瘍の一部を採取する方法であり、腫瘍の場所によっては侵襲性が高く、一部の症例では生検を実施できない場合もあります。CTスキャンやMRIなどの「画像検査」では、リンパ腫ほか、脳炎や脊髄炎、脱髄性疾患においてよく似た画像所見を示す場合もあり、画像検査のみでリンパ腫かその他の疾患かを区別することは、しばしば困難です。また、脳や脊髄の周りを取り巻く液体である「脳脊髄液」を用いた「細胞診」などの検査は、中枢神経リンパ腫の早期診断には、未だ感度が不十分であるとされており、中枢神経リンパ腫の早期検出、診断に寄与する新たな検査法の確立が望まれています。
 今回、血液内科学および脳神経内科学などによる研究グループでは、脳脊髄液中に含まれているリンパ腫由来の「遺伝子」(無細胞遊離DNA)に注目しました。液体中の腫瘍由来遺伝子について解析を行うことを「リキッドバイオプシー(液体生検)」と呼びますが、今回、中枢神経リンパ腫、脳・脊髄感染症、脱髄性疾患と診断された患者さんの脳脊髄液を用いて、リキッドバイオプシーを実施しました。その結果、中枢神経リンパ腫で高頻度に異常を認めると報告されている2つの遺伝子変異について、中枢神経リンパ腫の患者さんにおいて、80%の頻度で異常を検出することができました。一部の患者さんでは、従来の方法で確定診断がつく数ヶ月前に採取された脳脊髄液からも、これらの異常を検出することができました。一方で、今回検討された脳・脊髄感染症、脱髄性疾患の患者さんからは、これらの遺伝子異常は検出されませんでした。
 今回の研究によって、脳脊髄液を用いた「リキッドバイオプシー」は従来の組織生検に比べてより侵襲が少ない方法であり、発症からより早い段階で中枢神経悪性リンパ腫の存在を検出できる可能性があることを明らかにしました。早期診断や治療成績の改善に貢献できる可能性がある方法として、当院では今後の臨床現場での利用を目指して、さらに検討を続けて行く予定です。

〒470-1192 愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1番地98