藤田医科大学 腫瘍医学研究センター

がんゲノム医療

がんゲノム医療とは

がんゲノム医療とは、がん患者の腫瘍部および正常部のゲノム情報を用いて治療の最適化・予後予測・発病予防を行う医療と定義されています。
(厚生労働省 がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会による提言)
この中で臨床的に応用されているものとしては、がん遺伝子パネル検査です。

がん遺伝子パネル検査について

がんは遺伝子の変異によって起こる病気で、その変異は患者さんお一人ごとに異なります。
通常のがん遺伝子検査では特定の遺伝子の変異を調べるのに対し、がん遺伝子パネル検査では100種類以上の遺伝子を一度に調べます。

がん遺伝子パネル検査でわかること

  • がん遺伝パネル検査を行うことで、がん細胞の遺伝子変異が検出され、その変異に対する治療薬や臨床試験の情報を得ることができます。
  • ただし、現在のがん遺伝子パネル検査ならびに薬剤開発の状況から、治療につながる割合は10%程度と考えられます。有効な情報が得られない可能性も十分あることをご理解ください。
  • 治療につながる場合の多くは「臨床試験(治験)」もしくは「適応外使用」となります。
  • 「臨床試験(治験)」に参加するには、遠方への通院や入院が必要となることがあります。
  • 「適応外使用」は、薬剤費用、検査費用などが全て自費負担となり高額になります。
  • 数パーセントの割合で遺伝性腫瘍(生まれつきがんに罹りやすい体質を持つ)の遺伝子変異が見つかることがあります。これは、副次的な結果ですが、その場合、血縁者(親、子、兄弟姉妹等)も同じ変異を持つ可能性があります。

保険診療によるがん遺伝子パネル検査


  検査名 調べる遺伝子数 提出検体 検査費用
 

保険診療

 
OncoGuide NCCオンコパネル 124 がん組織検体 
+ 正常組織(血液)
 
560,000点
(医療費負自己負担が3割の場合
 168,000円)
 
FoundationOne CDx 324 がん組織検体
FoundationOne
Liquid CDx
324 血液

                                                  ※別途診察料がかかります。

                                                  ※解析途中で中止となった場合、この限りではありません。
                                                  ※変更することがありますので、詳細はお問い合わせください。

【 保険診療の対象となる条件について 】

① 標準治療が確立されていない固形がんの方。

  例えば、原発不明がん(がんが最初に発生した臓器がはっきりせず、転移病巣だけが大きくなったがん)や希少がん(患者数が少なく稀ながん)の方が対象となります。

② 標準治療が終了となった(終了が見込まれる者を含む)固形がんの方。他にも医学的な判断が必要な条件があり、ご自身が対象に該当するかは主治医にご確認ください。

臨床研究によるがん遺伝子パネル検査

 
  検査名 調べる遺伝子数 提出検体 検査費用
臨床研究 PleSSision-Rapid検査 143 がん組織検体
+正常組織(血液)
患者さん負担無 

PleSSision-Rapid検査」では臨床研究であるという位置付けから説明および報告書の返却は行いません。
ただし必要に応じ診療科の主治医が説明を行う場合があります。

 

自費診療によるがん遺伝子パネル検査

 
   検査名 調べる遺伝子数  提出検体  検査費用

自費診療
 
 PleSSision Whole exome  全エクソン  がん組織検体   1,012,000円
 Guardant360  74  血液  429,000円

※別途診察料がかかります。                
※解析途中で中止となった場合、この限りではありません。  
※変更することがありますので、詳細はお問い合わせください。

                                          

藤田医科大学病院のがんゲノムパネル検査フローチャート

  • PleSSision-Rapid検査:143個のがん関連遺伝子変異を調べるパネル検査の一つです。
  • PleSSision (Whole exome)検査:エクソンという遺伝情報に関与する遺伝子情報など詳細な遺伝子異常を調べることが可能です。
  • リキッドバイオプシー:血液中に漏出したがん細胞の遺伝子の断片化を検出する方法です。

がんゲノム医療外来

 
午前 臨床腫瘍科  臨床腫瘍科      
河田健司
須藤保
吉田淳平
 須藤保      
午後 消化器外科/
臨床腫瘍科
腎泌尿器外科/
臨床腫瘍科
脳神経外科 臨床腫瘍科 呼吸器内科
松岡宏
神谷忠宏 /
須藤保
住友誠
全並賢二 /
須藤保
大場茂生
(第3週のみ)
河田健司
吉田淳平
魚津桜子

遺伝子とは

遺伝子とは人間の身体をつくる設計図に相当するもので、ヒトには約2万個の遺伝子があると考えられています。人間の身体は、約60兆個の細胞と呼ばれる基本単位からなっていますが、この細胞の核及びミトコンドリアと呼ばれる部分に遺伝子の実体となる物質であるDNAが存在しています。人間の身体は、この遺伝子の指令に基づいてつくられ、維持されています。
「遺伝」という言葉は、「親の体質が子に伝わること」を言います。ここでいう「体質」の中には、顔かたち、体つきのほか、性格、病気に対するかかりやすさ、薬の効き目や副作用の出方反応なども含まれます。これらのように、ある人がもつ様々な特徴がつくられるには、親から伝えられた遺伝と生まれ育った環境が、お互いに影響しながら作用していると考えられています。「遺伝」という言葉に「子」という字が付いて「遺伝子」となりますと、「遺伝を決定する小単位」という科学的な言葉になります。人間の場合、約2万個の遺伝子が働いていますが、その本体は「DNA」という物質です。「DNA」は、A、T、G、Cという四つの印(塩基)の連続した鎖です。この印は、一つの細胞の中に約30億個ありますが、その印がいくつかつながって遺伝子をつくっております。印のつながる順番は個々の遺伝子により決まっています。一つの細胞の中には約2万個の遺伝子が散らばって存在しています。これらの遺伝情報を総称して「ゲノム」という言葉で表現されます。人間の体は、60兆個の細胞から成り立っていますが、すべての細胞が同じ遺伝子のセットを保有しています。
遺伝子には二つの重要な働きがあります。一つは、遺伝子が精密な「人体の設計図」であるという点です。受精した一つの細胞は、分裂を繰り返して増え、一個一個の細胞が、「これは目の細胞」、「これは腸の細胞」とその運命が決まりながら、最終的には60 兆個まで増えて人体を形づくりますが、その設計図はすべて遺伝子に含まれています。二つめの重要な役割は「種の保存」です。両親から子供が生まれるのもやはり遺伝子の働きです。人類の先祖ができてから現在まで「人間」という種が保存されてきたのは、遺伝子の働きによっています。

遺伝子と病気

こうした非常に大事な役割を持つ遺伝子の違いが、ある人がある病気にかかりやすいかどうかに影響を与えます。この「遺伝子が病気のかかりやすさに与える影響」は、非常に強い影響のものから、ごく弱い影響まで様々です。多くの病気では後でお話し申し上げますように、遺伝子の影響だけで病気になってしまうわけではなく、遺伝子と環境との両方が働いて病気が生じると考えられています。また、ある遺伝子に生まれつき違いがある場合には、その違いが子、孫へと伝わっていき、それに伴って病気のかかりやすさも、子や孫に伝っていく可能性があります。
このように説明いたしますと、遺伝子の変化が必ず病気を引き起こすと思われるかもしれません。しかし、実際のところ、遺伝子の変化が病気を引き起こすことは、むしろまれなことと考えられています。たとえば、一人一人の顔や指紋が違っているのと同じように人によって生まれつき遺伝子に違いが見られ、その大部分は病気との直接の関わりがないことがわかってきました。また、人体を形づくる60兆個の細胞では頻繁に遺伝子の変化が起きていますが、そのほとんどは病気との関わりがありません。遺伝子の変化のうち、ごく一部の変化だけが病気のかかりやすさに影響を与えていると考えられています。
ほとんどの病気は、その人がもって生まれた体質(遺伝素因と言います)と、病原体又は生活習慣などの影響(環境因子と言います)の両者が組合わさって起こります。遺伝素因と環境因子のいずれか一方が病気の発症に強く影響しているものもあれば、がんや動脈硬化などのように、両者が複雑にからみ合って生じるものもあります。遺伝素因は遺伝子の違いに基づくものですが、遺伝子の違いがあればいつでも病気になるわけではなく、環境因子が重要な役割を果たしている場合もあります。また、病気を引き起こす環境因子への反応の違いが遺伝子の性質によって決まることも多く、一見遺伝しないようにみえる多くの病気が遺伝子の違いによって引き起こされることも分かってきています。

がんと遺伝子

あなたのがんの性質や状態等を知るために、がん組織における遺伝子の変異を調べることが有用である可能性があります。ある正常な細胞の遺伝子に、いろいろな異常( 変異) が起こることによって、正常な細胞ががん細胞に変化してしまうことが知られています。がん細胞の有する遺伝子の異常の違いによって、がんの性質や抗がん剤の効き方に差が現れるのではないかと考えられています。例えば、細胞を増やすための信号に関係している遺伝子に異常が起き、細胞を増やすための信号が無制限に送られるようになることにより、細胞が増え続けることが、がん化の原因となっている場合があります。このような場合、どこに遺伝子の異常があるかを調べ、異常な遺伝子から送られている信号を特異的に阻害する薬を投与することができれば、非常に効果的ながんの治療ができる可能性があります。もっとも、そのような信号を阻害する薬を投与しても、その薬の効果を上回るような遺伝子の異常がある場合には、十分な効果が得られないということもあります。

がんの薬物療法選択に関わる遺伝子検査とは

抗がん剤の中には特定の遺伝子異常により治療効果が得られるものあるいは得られなくなるものがあります。
研究や実臨床の結果からある抗癌剤の使用について選択するための検査をコンパニオン検査と呼びます。
これまでのコンパニオン検査は1つの遺伝子のみを対象とするものが中心でした。しかし、遺伝子の研究が進むにつれ、たくさんの遺伝子を調べないと治療適応が決まらない場合が増えてきました。また、検査技術の進歩により一度に数百もの遺伝子を調べる技術が開発されました。
これを遺伝子パネル検査といいます。
遺伝子パネル検査には様々な種類があります。その違いは検査の方法や検索遺伝子の数などによって決まります。
※ 上記、「藤田医科大学病院のがんゲノムパネル検査フローチャート」を参照ください。

ゲノム検査の種類と対象

1.単一の遺伝子検査:遺伝子変異と治療薬を1対1で結び付ける検査です。
  例:肺がんにおけるEGFR, ALK, ROS1など 大腸がんにおけるRAS/BRAFなど
2.がん遺伝子パネル検査:がんに関連する複数(数十~数百)の遺伝子を網羅的に調べます。薬剤に対応していない遺伝子も含みます。
3.全エクソン検査:すべての遺伝子情報を検査します(約2万種類)。まだ研究段階の検査であって、薬剤に対応していない遺伝子が大半です。
4.全ゲノム検査:全エクソンとそれ以外の領域もふくめてすべてのゲノム情報を調べます。まだ研究段階の検査で、機能が分かっていない領域が大半です。

がんゲノムパネル検査の限界

なお、がんに関わる遺伝子の変異については、まだ分かっていないものも数多く存在するため、この検査を受けていただいても有用な情報が得られないこともあります。
さらに、この検査の精度は、検体の状態により左右されることがあるほか、検査方法の技術的な限界もありますので、得られた検査結果の正確性が保証されるものではありません。また、検査の性格上、一部の遺伝子について検査結果を得ることができず、その遺伝子の検査結果をお返しできない場合もあります。